病気になる前、「トイレへ行く」という行為を意識したことはありませんでした。
行きたくなったら歩いて行く。
それだけです。
当たり前すぎて、考えたこともありませんでした。
一般病棟へ移っても、私はまだ自由の身ではありませんでした。
体には、浸潤液を抜くための管が入ったまま。
点滴もつながっています。
トイレへ行くたびに、それらを一緒に連れて行かなければなりませんでした。
立ち上がるだけでも一苦労。
「管は引っ掛かっていないか。」
「点滴台はちゃんとついてきているか。」
そんなことを気にしながら、ゆっくり歩きます。
健康だった頃には考えもしなかった動作です。
人は「歩けること」が幸せなのではありません。
「何も考えずに歩けること」が幸せなのだと、この時初めて知りました。
入院中は、そんな小さな苦労の積み重ねでした。
でも当時は、それが「小さなこと」だとは思えませんでした。
毎日が挑戦で、一つひとつをクリアしていく生活だったのです。

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